畜産の農務省
2005-07-06


約9,600万頭の牛が飼われ、ほぼ90万トンの生鮮牛肉を輸出している米国にしては、友邦イギリスを散々な目に遭わせ、世界に混乱と恐怖を広げたBSEに対して、総じて高をくくり過ぎた感が否めない。
 その中で、科学者と消費者団体は警戒的だった。BSEの病原体プリオンの発見者である生物化学者のプリュズィナー博士らは、早くから農務省の姿勢に批判的な見解を打ち出し、肉骨粉を給餌する危険性を指摘していた。
 また、今回、国内2頭目のBSE牛確認のきっかけを作ったのは、農務省のフォン(Phyllis K. Fong)監察官だった。彼女は、シロ・クロ矛盾する判定のままに7ヵ月も眠っていた問題の牛の検体を英国に送って、米国では採用していない「ウエスタン・ブロット法」で検査する手続きを命じた。今、消費者団体などから、その勇気を讃えられている。
 全頭検査を行っている日本に比べ、米国では2003年の暮れに国内第1例のBSE牛が確認された後ですら、1,700頭に1頭の検査だった。それも、英国や日本が採用している、精度の高いウエスタン・ブロット法を採らず、農務省首脳は、米国の流儀を「黄金基準」と呼んで誇ってきた。行政の手ぬるさと驕りが指摘されても仕方ない。
 こうした、科学を軽視した米農務省の驕慢を支えて来たのが、全米肉牛生産者協会(NCBA)など、畜産業界に強く傾斜しているブッシュ政権である。米国政治の特徴とも言えるが、行政組織のトップをことごとく与党の人脈で固めるやり方は、ここにも臆面もなく発揮されている。
 ジョハンズ現長官は酪農家の出身だし、ヴェネマン前長官時代に肉牛生産者業界から送り込まれた2人の長官代理、ランバート(Charles Lambert)とムーア(Dale Moore)の両氏を、そのまま留任させている。農場及び対外農政担当のペン農務次官(J.B.Penn)は、畜産業者を顧客とするコンサルタント会社の出身である。
 こうした顔ぶれからも分かるように、米国は政権と業界が一体で、何としてでも国産牛肉を国の内外に売り込もうと図っている。しかも、彼らにとって最大の海外市場が日本であることを、肝に銘じておくべきだ。(;)

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